秋空の下、小島弥太郎は屋敷の縁側で転寝をしていた。
その周辺には彼の主、上杉政虎の拾ってきた猫達が心地よさそうに陣取っている。
「またこんな所で寝て。弥太郎さん、いくらまだ昼は暖かいといっても、いい加減風邪引きますよ」
それでも揺すってまで起こそうとはしないのは、弥太郎が気持ちよさそうに寝ているからだ。
そろそろ冬とはいえ、まだまだ昼の日差しは暖かい。これは弥太郎でなくともまどろみたくなるというもの。
そうはいっても、ずっと寝たままでいられるのも面白くない。
真奈は手持無沙汰にじゃれつく猫をあやしながら、ちょっとした悪戯を思いついた。
「あらあら姫、何をなさっておられるのです」
「綾姫様」
「まあ、姫ったら。もう私たちは身内なのですから、そんな他人行儀な呼び方はなさらないで下さいと言っておりますのに」
「それを言うなら、綾姫様だって」
「あら、本当」
真奈がこの時代に来た時からこう呼び合っているのだ、儀姉妹になったからと言ってそうすぐに改められるものでもない。
「ところでで姫、先程から何を……」
「え、っと」
真奈は一瞬何と答えようか悩んだが、笑いを堪えようとしている綾姫の様子を見て苦笑する。
「何匹乗るかな、って」
真奈は先程から呼んでも起きない弥太郎の上に、いったい何匹猫が乗るだろうかと試しているのだ。
幸い猫達も弥太郎の巨体の上が心地よいのか乗せると大人しくしている。
「それにしても、起きませんね」
「ええ、そうですわね」
「戦場では鬼小島って言われているような人なのに、いいんですかね」
真奈が半ば呆れた声で呟くと、
「姫が傍においでだから安心しているのですわ」
こみ上げる笑いの為に声を震わせながら綾姫は答える。
「そうなのかなぁ……、本当は起きてたりして」
もう一匹猫を乗せるついでに確認すると、やはり規則正しい寝息が聞こえてくる。
(疲れてるのかな?)
そう思って、猫を乗せる作業を中断し、そのまま弥太郎の寝顔を静かに見つめる。
綾姫はその様子を見ながら、込み上げる笑いを必死に抑えていた。
+ + +
言えるわけない、今更起きて言える訳がないじゃないか。
気持よさそうに寝ている猫を起こすのが可哀そうで、すぐに起きる事が出来なかったなんて。
そして弥太郎はそのまま暫く、狸寝入りを続ける羽目になるのだった。
了